急性心筋梗塞


 病態生理

  1) 左心機能の低下

  一般に心筋梗塞といえば左室の梗塞を意味する.したがって心筋梗塞では左心機能の低下が主体であるが、下壁梗塞の一部は右室梗塞や心房梗塞を合併する.
  梗塞を発症すると、閉塞冠動脈灌流領域の収縮タイミングに差を生じ(dys‐synchrony)、続いて収縮性が低下する(hypokinesis).その後収縮性が消失し(akinesis)、ついには収縮期に膨隆する奇異性運動(dyskinesis)が認められるようになる.一方、非梗塞部は過収縮(hyperkinesis)となり、心機能を保持しようとする.この非梗塞部の過収縮は交感神経系の活性亢進とFrank‐Starling機序による.ただし非梗塞部の過収縮は、むしろ梗塞部のdyskinesisを増強する.なお非梗塞部の過収縮は約2週間続く.
  梗塞領域の収縮不全により、左室機能は低下する.すなわち一回心拍出量が低下し、左室拡張末期圧は上昇する.心拍出量の低下は血圧低下、冠灌流圧低下をきたし、虚血を憎悪させる悪循環が形成される.
  広範な梗塞では梗塞心筋が薄く伸ばされ、梗塞部拡張(infarct expansion)を生じる.時間経過とともに線維化するため、収縮期の奇異性運動が軽減され、左室機能はやや改善する.

  2) 左室リモデリング

  急性期以降も左室の大きさ、形、壁厚が変化する.これをリモデリング(再構築)という.梗塞部だけでなく非梗塞部にもみられ、心不全の大きな要因となる.左室リモデリングは比較的早期に認められる梗塞部拡張と、数ヶ月から数年をかけて生じる心室拡大(ventricular dilation)によって特徴づけられる.

 a) 梗塞部拡張

  新たな心筋壊死を伴わない梗塞部の拡大と菲薄化で、梗塞部線維組織になる前の比較的早期に生じる.梗塞部拡張があると死亡率,心不全ならびに心室性不整脈の合併率が高くなる.

 b) 心室拡大

  梗塞に陥っていない部分の心筋に数ヶ月から数年の時間経過で生じる.心筋梗塞後、健常部心筋には多くの負荷がかかり肥大,拡張する.この肥大と拡張は代償機序として一見理にかなっているが、結果として心筋酸素消費量を増加し、さらに心筋の線維化をもたらし、最終的には収縮能が低下する.

  3) 電気生理学的異常

  急性虚血は伝導性低下,不応期の変化,異常自動能の亢進をきたし、さらに交感神経の活性化を背景として、種々の不整脈が発生しやすくなる.

 a) 心室性不整脈

  実験的には冠動脈結紮後30分以内の初期不整脈相と、6時間前後より約2日間の後期不整脈相が観察される.前者では虚血心筋内のリエントリを、後者はPurkinje線維の異常自動能を機序とする.
  臨床例ではAMI発症直後から数時間が初期不整脈相に相当し、心室頻拍(ventricular tachycardia;VT),心室細動(ventricular fibrillation;VF)の致死的不整脈が生じやすい.AMI発症直後に突然死する例が多いが、その約80%はVT/VFによる.
  梗塞が完成されると、梗塞部内に残存した生存心筋を介しリエントリ回路が形成され、VT発作を繰り返すことがある.特に広範な梗塞例、心室瘤例に多く、予後に大きく影響する.

 b) 除脈と伝導障害

  特に右冠動脈の閉塞では、洞結節の虚血で洞除脈が、房室結節の虚血で房室ブロックをきたしやすい.
  左冠動脈前下行枝の閉塞による房室ブロックは脚枝レベルの広範な障害を意味し、きわめて重篤となる.